私立高校3年(東京) M君の意見



 私は、現在新聞等で報道されているような、狭い範囲での、特例としての大学入学
年齢の引き下げには反対ですが、中学から高校・大学、それ以上を含めた、教育課程
の全体的な多様化の一部として17歳以下での大学への入学を可能とすることには、そ
の具体的内容によっては賛成します。
 千葉大学の丸山学長が読売新聞で示された案では、「先進科学課程」への合格者に
は正副のチューターが付けられ、各人の希望等により、チューターの個人授業を含め
た学習メニューが作られることになっていますが、これでは
  せっかく自分の意志によって特定の学問分野を専攻することを希望して「先進科学
課程」に入学した学生を、学習の上でも、大学での生活においてもチューターに大き
く依存する、「物わかりよく、従順で優しい」人間にし、チューターの相当の配慮が
ない限り、研究する対象(世界中で誰もまだ解決できていない−つまり、教えてくれ
ない−疑問を含むもの)を選んで(指導者の助言は受けつつも)自力で研究していく
という研究者としての能力においては、通常の方法で入学し、多人数での授業を自分
で選択して受けながら専攻分野を決めていった学生に劣るようにしてしまう危険があ
ると思います。
 そして、どの状況でどの程度に学生にかかわるべきかという判断が、このように学
生一人を対象として与えられた場合、全てのチューターにより適正に行われることは
難しく、チューターのやり方次第では高々その人のクローンのような研究者が生まれ
るだけになる危険性も大きいと思います。
●「先進科学課程」に合格し、入学した高校生が、一部の(チューターの個人授業以
  外の)授業をと もにする、従来の方法で入学した大学生たちからも、高校にも
  う1年残る同期生たちからも、自分 たちとは異なる、特別の存在として意識さ
  れ、友人関係を継続させ発展させることが難しくなり、いっそうチューターに依
  存せざるを得なくなるかもしれません。
  また、従来の中学生・高校生という、人間としての社会的な規範を身につけ、自
  分の考え方を確立し、自分の進路を考える時期において、周囲から特別視され、
  注目はされながらも敬遠されがちになことがあるとすれば、それは人間としての
  その人にとって、大きな損失となると思います。特定の科目ができる、できない
  ということを過大に評価せず、互いをあるがままの姿でとらえられるような仲間
  の中にあることの方が、担当する学生に早く成果を挙げさせようと(無意識にせ
  よ)焦るチューターによって、大量の課題を与えられ続けることで人間関係上の
  問題から守られているより、はるかに良いと思います。対等な個人としての自由
  な人間関係の中で、挫折感も含めた様々な経験をすることが重要だと思います。
●大学入学者の中で、現役生とほぼ変わらない人数の浪人生がいることを考えてもわ
 かるように、特別扱いされずに同じ方法で大学に入学した場合なら、同じ場にいて
 も、1年もしくは2年の年齢差は、同じ年齢でも個人差の大きい大学生にとって、
 友人を作るのに大きな障害とは意識されにくいと思います。その点で、大学入学年
 齢の引き下げ自体が問題だと言っているのではありません。全く同じ扱いを受けて
 いれば、年齢の差などすぐに気にしなくなります。

 このようなことから、例えば
●高校の単位は、ある割合以上の出席+試験での一定の成績、出席は関係なく試験で
 の(より高い)成績のいずれによっても得られるものとし、必修単位以外は、ある
 学年で取得できなかった単位があっても、進級を認める。
●高校の必修単位そのものを減らし、選択の組み合わせの幅を広げる。大学の公開講
 座などへの参加も、申請して認められれば単位となる仕組みを作る。
●マスコミ等は、学校外や卒業後の生徒の行動について、高校にその責任の一端があ
 ると示唆するかのような報道を控えることによって、高校を過度な「生徒指導上
 の責任」から解放する。現在の高校で正常な生徒指導が機能していない以上、生徒
 が高校に集まる機会が減少しても、実際面で問題は少ないと考える。問題なのは、
 生徒が外で問題を起こすのを恐れて生徒を学校に拘束する高校である。
●学期中の大学の通常の講義も、その大学の学生が登録を済ませた後で、人数に余裕
 があれば中・高 生、他大学の学生、一般の社会人などが(必要なら受講料を払っ
 て)参加できる道を開く。
●中学校(=義務教育、もちろん、実際に通うことに限らず、資格として)を修了す
 れば大学入試の受験資格が得られるようにする。但し、受験時にその年に入学した
 いか、希望すればその後数年以 内のどの年にでも入学できる権利を得たいかを申
 告する。
 これによって、早めに受験勉強を終わらせて高校に在籍しながら好きな勉強を進め
 ることも、大学進学が決定してから1年間程度(イギリスのパブリックスクールの
 卒業生がよく行うという)アルバイトで資金を貯めての長期の(留学を含めた)海
 外旅行、ボランティア活動などでの学校ではできにくい勉強等に時間を使うことも、
 もちろん高校1年または2年の修了後に直接大学に入学する(その場合も、待遇を
 区別されないことが重要である)こともできるようになる。

 大学の各学部・学科は、それぞれの方針により選抜の方法を自由に多様化し(一般
教養としての各教科の試験を行う、特定の教科の試験のみを行うなどの方法から組み
合わせる)、入学後も、「最低限の教養科目」を履修させる、そのような義務付けは
行わないなどの中から、それぞれふさわしいものを選んで実行し、それらの情報を広
く公開することで、受験生がより自分に合った選択をすることができるようにする。
 といった改革により、事実上、多くの分野で大学に入学することが高等教育(ここ
では、「高等学校の」ではなく「大学以上の」教育の意味)を受ける必要条件となっ
ている上、高校生は学校の様々な規制に縛られている現状を是正し、学問の場を、よ
り開かれた、自由なものにすることができると思います。